起業に関する失敗;事業の柱を決めて突き進むということ
私が企業を定年退職して、とある大学のインキュベーション施設に入ってしばらくしたころ、入居を希望してこられた理学療法士の方がおられました。その方は資格が示すように病院などでその資格を活かしてケガをされた方やご老人のリハビリをされておられました。その中で特に老人のリハビリを通じて、車椅子に頼らずに自立歩行を助け、自分の力で歩く期間をできるだけ長くしたいという意味で自立歩行補助具を考案されました。車椅子を利用しだすと歩く意欲がある意味そがれてしまい、ここから寝たきり生活の入口になりかねません。その意味ではまだ歩いてみようという意欲のあるかたには良い補助具だったと思います。爆発的とはいえないまでも売り上げはそれなりにはあったようです。IM(インキュベーション・マネージャー
としても微力ながら協力させてもらったことは憶えています。コストを下げるために一度に多くの製品を作り、在庫として保有し、売れたら減っていくというパターンだったと思います。介護施設などを中心に、またホームページからも注文はありましたが「爆発的に」とはならなかったようです。
そのうちどこで情報を得たのか海藻の「アカモク」についてのビジネスをどこからか耳にして、漁師町に顔を出すようになります。「アカモク」という海藻に含まれるフコイダンという成分が人間の体にいい、特にがんの抑制効果や免疫力の強化などの効能が謳われていました。いっぽう漁師にとっては漁船のスクリューに巻き付く厄介者。この厄介者を漁師から安く買い取って加工場でフコイダンを抽出するなどして、サプリを作って販売使用をもくろんだのです。
サプリというカテゴリーで効能を謳うことには薬事法上の問題があり簡単にはできませんし、サプリにするノウハウや資金もありません。そこで窮余の策で考え付いたのがフコイダンの成分を練りこんだ「飴」でした。(あくまでもお菓子として)和菓子屋さんに依頼して、何種類か試作を行い、百貨店などで宣伝販売するもあまり売れず・・・。行動力があり、これはといったアイデアがあればすぐに行動に移すかたでしたが、深く検証せずに突進してしまうタイプでした。これらからいえることは、経営資源の分散を避けるためにも最初の自立歩行補助具をもっと力を入れて販売すべきだったと考えられます。
次々と気の向くままに次の事業に走ってしまったために、経営資源(=カネ)の飛散を招いてしまったこと、嫌気がさしてパートナーも去ってしまったことが失敗の原因とも言えます。
結論として言えることは、最初にこれと決めた事業の柱に注力せずにあれもこれもと手を出すことは資源の散逸を招き、結局どっちつかずという結果になってしまいます。経営資源に余裕があるならともかく、起業初期には決してやってはいけないことです。起業初期は不安もあり、あちこちに目が向きこちらの方がよかったのではと思いがちですが、最初に決めた柱で進んで見極めることが重要です。